馬貴派八卦掌の動作に関する推論的考察T

1,スポーツ科学と馬貴派八卦掌 
 ご自身の健康のために、武術やヨガなど、所謂ボディーワークと呼ばれる運動を実践されている方々は、実に多くの数に上るでしょう。それぞれに成果を体験されている方も多いことでしょう。私と馬貴派八卦掌を日々ご一緒されている数十名のみなさんの中でも、はっきりとした健康の改善効果を得られている方々は、相当な数に上ります。その大半が、医療機関での検査の結果、「血圧が下がった。」「コレステロールの値が下がった。」「中性脂肪の値が下がった。」「五十肩の痛みが消えた、」「腰痛が改善した。」などなどの、信頼できる効果を得ておられます。そして、練習を開始して、比較的早期に、具体的な効果が表れています。そういった、望ましい効果を得られる方の割合が、私がこれまで自分の実践として、指導者として、研究報告などとして経験したり見聞してきた多くの運動と比較して、この馬貴派八卦掌では高いような気がします。また、効果の表れる時期が、練習開始後比較的早いと思われます。ということは、技能の水準に関わりなく、こういった効果が得られるのではないかと推察されます。もっとも、これらの事柄は、厳密に科学的な検証を行った上で述べている訳ではなく、今後是非とも、科学的な研究手段によって、検討してみたいし、しなくてはならないと考えています。しかしながら、こうした馬貴派八卦掌を練習することによる健康増進効果は、おそらくは信頼に足るものであろうと思っています。
 このような健康増進効果であれ、今は未だ広くは認識されるにいたってませんが、競技スポーツ選手のパフォーマンスを高める効果に対しても、私としては馬貴派八卦掌に大いに期待できるのではないかと、強く感じております。後者については、私がコーチするエアロビック競技の日本チャンピオンを始めとする数十名のトップ選手達に、大なり小なり馬貴派八卦掌のノウハウを応用して指導したところ、コーチの私の目から見て明らかな成果を感じました。いづれにしましても、こうした効果なり成果を達成できるのではないかということは、その根本的な理由を、馬貴派八卦掌の動作の特性に求めることが、まずもって必要であろうと考えています。つまり、「こういう動作を行うから、こういう効果が出る。」という因果関係を求めることができるのではないかと。有体に言えば、「馬貴派八卦掌はこんな動き方をするから(しろと要求されるから)、こんな効果が出る。」という明確な関係性の存在。
スポーツ科学を専門とする私は、この点に強い興味を抱きつつ、現在多くの運動が、健康増進やスポーツパフォーマンスの向上に役立つとの情報が氾濫する中、馬貴派八卦掌はそれらの中でも白眉と表したい有益性を持つものであり、今後健康科学やスポーツ科学の分野において、革新的な内容を含有するものであると考えています。従って、馬貴派八卦掌の走圏や各種掌法などにおいて行われる動作の特性と、それによって養われる身体の構造と機能面さらには感覚面における変化、これらについて掘り下げていきたいと思います。
今後、動作分析などの手段を用いて、客観的に検討していきたいと考えていますが、ここでいくつかのスポーツ科学的見地からの推論を述べてみたいと思います。
2,馬貴派八卦掌のストレッチ効果
 世に広く行われているストレッチングは、少し考えてみれば明らかなように、身体のある部分のみを伸ばすものであり、かつある部分が伸ばされると、他に縮む部分が生ずるものです。対して、馬貴派八卦掌の種々の動作では、その動作を行う際の要求を遵守して行おうとすれば、身体のより多くの部分を、関連させながら全体に渡って伸ばすという結果を求めます。健康増進やスポーツパフォーマンス向上にとって、この方がより望ましいのは言うまでもないでしょう。
3,インナーマッスルと馬貴派八卦掌
 身体の表面に存在する表在筋(アウターマッスル)に対して、身体のより深層にある深層筋(インナーマッスル)の機能を高め、諸々の動作を行う際に活用することの重要性が、ようやくにして叫ばれている昨今であります。そして、そのための動き方やトレーニング方法等が色々と提唱されています。ずばり馬貴派八卦掌の動き方は、一見不自然で奇妙なものに感じますが、それは無条件に、腸腰筋や腹横筋、インナーマッスルではないが大変重要視されているハムストリングスなどの筋群を、活性化し、使えるように機能改善するものです。また、それらの筋群を動員しなければ正しく動けないものです。つまり、多くの運動よりもはるかに、これら重要とされる筋群が使えるようになる運動法と言えるでしょう。
4,体幹の運動
 私などはまだまだ自覚できませんが、例えば走圏をするときに、脊柱は実に
豊かに運動すると考えられます。李先生ははっきりと自覚され、かつおっしゃっています。近年、体幹部を主体とした運動こそ、最高の運動であるといったことも言われていますが、我々の八卦掌は日々の練習の中で意識することがなくても、その状態を構築する作業を行っているのでしょう。身法を主体として動くという根本的な要求の意味はまさにそこにあるといえるのではないでしょうか。そして、中正も同様に。

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